標準数の面影を追って:合理性の落日

標準化を目指すが・・・・

昔、R20やR40といった標準数を何気なく記憶していた頃がありました。計算尺を操りながら、乗算や割算の概算を頭の中で弾く時、これらの数字がふと現れて、おおよその見当をつけるのに役立ったものです。

50年ほど前には、一時、部品の寸法設計に標準数を導入しようと試みたこともありました。技術的な観点からすれば、等比数列に基づく標準化は、部品の互換性や効率的な生産に繋がる合理的な考え方だと感じていたのです。しかし、市場の反応は芳しくありませんでした。「なんだか中途半端な数字だね」といった声が多く、結局のところ、キリの良い寸法へと設計変更せざるを得ませんでした。

この経験を通じて痛感したのは、技術的な合理性だけでは、必ずしも受け入れられない現実があるということです。モノ作りにおいては、等比的な発想が効率性を高める可能性がある一方で、営業的な視点で見ると、お客様にとって分かりやすく、覚えやすい等差的な考え方の方が、安心感や親近感に繋がるのかもしれません。

標準数の衰退

そして、時代の流れとともに、製品に求められる要素も変化してきました。軽量化、最小化、最適化といったキーワードが重視される現代において、標準数は、時にその足かせとなることがあります。細部にまでこだわり、限界性能を追求する中で、規格化された標準数の枠には収まらない、より自由な設計が求められるようになったのです。

もちろん、標準数が全く姿を消したわけではありません。特定の分野や用途においては、その合理性が今もなお活かされていることでしょう。しかし、かつてのように、あらゆる場面でその存在が当たり前だった時代は、確実に過ぎ去ったと言えるのではないでしょうか。

標準数を巡る過去の記憶を辿りながら、技術の進歩と市場の変化、そしてそれに伴う価値観の変遷を、改めて感じています。あの頃、計算尺と共に頭の中で息づいていた標準数は、今や時代の片隅で、静かにその役割を終えようとしているのかもしれません。


工業用標準数(Rシリーズ)

工業製品の設計や部品の標準化などに広く用いられるRシリーズ標準数です。複数のシリーズに共通する数値が一目で分かります。(1~10の範囲の数値)

標準数値R10
シリーズ
R20
シリーズ
R40
シリーズ
1.00
1.06
1.12
1.18
1.25
1.32
1.40
1.50
1.60
1.70
1.80
1.90
2.00
2.12
2.24
2.36
2.50
2.65
2.80
3.00
3.15
3.35
3.55
3.75
4.00
4.25
4.50
4.75
5.00
5.30
5.60
6.00
6.30
6.70
7.10
7.50
8.00
8.50
9.00
9.50

※ 上記は1~10の範囲の概略値です。実際の適用では、これらの値を10倍、100倍などした値も使用されます。
 ※ 〇印は、その数値が各シリーズに含まれていることを示します。

コメント

このブログの人気の投稿

Evernoteと日産自動車の衰退に見る共通点