工業系標準数での掛け算・割算

工業やものづくりで活躍する「標準数」(R系列)の秘密:掛け算・割り算で「だいたい」が掴める話

皆さん、こんにちは!

「標準数」と聞くと、学校で習った普通の実数(1とか0.5とか)を思い浮かべる方が多いと思います。でも、工業や製品設計の世界では、別の種類の「標準数」が頻繁に使われているんです。それが、R系列(アールけいれつ)と呼ばれる特別な数列、例えばR10R40といったものです。

これらのR系列は、抵抗器の抵抗値、コンデンサの容量、ねじのサイズ、パイプの太さなど、様々な部品や製品の数値を標準化するために決められています。なぜ、このような数列を使うのでしょうか?そして、これが私たちの計算にどう役立つのでしょうか?

R系列ってどんな数?

R系列の数は、「前の数に、決まった倍率を掛け合わせていく」という等比級数になっています。

例えば、R10系列を見てみましょう(多くの場合、10から100、100から1000のように「10倍ごと」の区間で考えます)。約1.25倍ずつ増えていく数列で、代表的な数値は以下のようになります。

10, 12.5, 16, 20, 25, 31.5, 40, 50, 63, 80, 100 ...

R40系列はもっと細かく、約1.06倍ずつ増える数列です。

なぜ、このような倍率で数値を決めるのでしょう? これが、今日のテーマである「掛け算・割り算との関係」に繋がってきます。

R系列の数同士を掛けたり割ったりすると…?

R系列の数が等比級数になっていることの、面白いメリットの一つがこれです。

R系列の数(またはそれに近い数)同士を掛け算したり、割り算したりすると、その計算結果が、また別のR系列の数(またはそれに近い数)になることが多いのです!

例を見てみましょう(R10系列で考えます)。

  • R10の 20 × R10の 40 = 800。これはR10の 80 を10倍した数ですね。
  • R10の 25 × R10の 31.5 = 787.5。これはR10の 80 にかなり近い数です。
  • R10の 63 ÷ R10の 20 = 3.15。これはR10の 31.5 を10分の1にした数ですね。

なぜこんなことが起こるかというと、掛け算・割り算は、数の「比率」に関わる計算だからです。R系列の数は、決まった比率で並んでいます。そのため、ある比率の数と別の比率の数を掛け合わせたり割ったりしても、結果がまたその「決まった比率の並び」の中に戻ってきやすい、という性質があるのです。

だから「おおまかな暗算」ができる!

この性質は、私たちにとって非常に便利です。もしあなたがR10やR40といったR系列の数値をいくつか頭に入れていれば、これらの数に近い値同士の掛け算や割り算をするときに、正確な答えは出なくても、「だいたいこのくらいの値になるだろう」というおおまかな見当をつけることができるようになります。

例えば、「だいたい16Ωくらいの抵抗器と、だいたい30mAくらいの電流があったときの電圧は?」とオームの法則(V=IR、電圧=抵抗×電流)で計算したいとき。

16ΩはR10の「16」に近いです。30mAは、単位は違いますが「30」という数値はR10の「31.5」に近いです。(ここでは値の大小よりも、数値の並びに注目します)。

R10の「16」とR10の「31.5」を掛け合わせるとどうなるか? 先ほどの例のように、これはR10の「50」あたりに近い数になります。つまり、計算結果は「だいたい50」くらいになりそうだ、と推測できるわけです。実際は16 × 30 = 480 ですから、おおよそ合っていますね。

正確な計算には電卓が必要ですが、例えば「この部品とこの部品を組み合わせると、値は一桁上がるのか? 下がるのか?」「だいたい数百か?数千か?」といった、桁感やオーダーを素早く掴みたいときに、R系列の知識は非常に役立ちます。

特に工業製品の設計や選定では、R系列の値で部品が供給されていることが多いため、この感覚を身につけておくと、仕様の確認や簡単な検討が頭の中でスピーディにできるようになります。

まとめ

工業用に使われるR10やR40といった「標準数」(R系列)は、等比級数という特別な並び方をしています。この並び方のおかげで、R系列の数同士の掛け算や割り算の結果は、おおむね同じR系列の数(またはそれに近い数)になりやすい、という便利な性質があります。

この性質を理解し、R系列の数値を少し覚えておくと、これらの数に関わる掛け算や割り算のおおまかな暗算ができるようになります。製品設計や部品選定など、様々な場面で役立つ、ちょっとした「数の魔法」ですね。

もし興味が湧いたら、R10やR40の正確な数値を調べて、身の回りの製品にどんな値が使われているか見てみてください。きっと新しい発見があるはずです!


 



標準数値R10
シリーズ
R20
シリーズ
R40
シリーズ
1.00
1.06
1.12
1.18
1.25
1.32
1.40
1.50
1.60
1.70
1.80
1.90
2.00
2.12
2.24
2.36
2.50
2.65
2.80
3.00
3.15
3.35
3.55
3.75
4.00
4.25
4.50
4.75
5.00
5.30
5.60
6.00
6.30
6.70
7.10
7.50
8.00
8.50
9.00
9.50

参考

この記事は、昔、パソコン通信niftyのForumに投稿したものを再掲しています。

この事を習ったのは、1971年、計算尺や設計基礎の授業の時でした。R40程度までは覚えていましたが、電卓を活用するようになってから使うことが無くなりました。

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