70歳での鼻中隔湾曲症手術体験記
今回は、私が70歳を過ぎて経験した、鼻中隔湾曲症の手術についてお話ししたいと思います。
手術を受けることになったきっかけ
私は長年、睡眠時無呼吸症候群に悩まされてきました。若い頃からいびきがひどく、家族からは「寝ている間に呼吸が止まっているようだ」と心配されるほどでした。自分自身に自覚はなかったのですが、数年前に誤嚥性肺炎で入院した際、いびきについて相談したところ、睡眠時無呼吸症候群の検査を勧められ、CPAP療法を開始することになりました。
私のCPAPは、鼻にマスクを着けて空気を送り込むタイプです。しかし、花粉症の時期になると鼻詰まりがひどくなり、CPAPを使っても息苦しさを感じるようになりました。そこで、かかりつけ医に相談したところ、耳鼻咽喉科の受診を勧められ、約20年ぶりに耳鼻科の診察を受けたのです。
そこで診断されたのが、「鼻中隔湾曲症」でした。しかも、かなり湾曲しているとのこと。根本的に治すには手術しかないと言われ、これが手術を受けることになった始まりです。耳鼻科の先生からは、「本来ならCPAPを始める前に、まず鼻中隔湾曲症を治すべきだった」と言われましたが、内科の先生に伝えるのは控えました。先生はさらに、「70歳でも、まだ十分に手術をする価値はあると思いますよ」とおっしゃいました。その言葉に、手術に対して「嫌だ」とは言えませんでした。
手術を行っていない町医者でしたので、手術が得意な隣町の大きな病院を紹介していただき、担当医の診察予約まで取っていただけました。
病院での診察
紹介状を持って隣町の病院へ向かい、受付を済ませました。診察室に入ると、医師が鼻の中を内視鏡で詳しく診察し、「空気の通り道がかなり狭くなっていますね」とおっしゃいました。さらに詳しい診断のためにCT検査を受け、再び診察室へ戻りました。
医師からは、どの軟骨を削り、鼻の通りを良くするためにどこの組織を取り除くか、といった手術内容について早口で説明を受けましたが、頷くばかりでした。私が一番知りたいのは、手術の痛みがどの程度かということです。その点について尋ねると、「手術中は全身麻酔なので痛みは感じません。術後は痛み止めを処方しますし、痛みの感じ方には個人差がありますが、激しい痛みはないでしょう」との返事でした。それでも、不安は完全に解消されませんでした。
その後はトントン拍子で手術の日程が決まり、入院日や入院期間、そして手術前の検査日も指定されました。コロナが落ち着いてきた時期でしたが、入院前日のPCR検査も必要とのことでした。医師にお任せするしかない状況で、物事がどんどん進んでいきました。
手術前の検査と準備(手術日の一週間前)
手術前検査は、手術に体が耐えられるかを病院側が慎重に調べるために行われるそうです。全身麻酔で人工呼吸器を装着するため、口から肺へ管を通す必要があります。その際、口の中の細菌が肺に入らないように、歯科で口の中の状態をチェックし、歯のぐらつきや歯茎の状態などを調べてもらいました。
また、人工呼吸器装着のため、呼吸器内科で肺の状態も調べてもらいました。レントゲンや、肺活量、そして息の吸う吐くといった動的な検査を行い、問題ないというお墨付きを得ました。その後、手術室担当の看護師さんから手術当日の流れについて説明を受け、さらに麻酔医から麻酔の手順について話を聞きました。最後に手術担当医の診察室で、改めてよろしくお願いいたします、と挨拶をして手術前検査は終わりました。
PCR検査(入院前日・手術日二日前)
入院前日には、コロナに感染していないかを確認するためのPCR検査のためだけに病院へ行きました。診察はなく、看護師さんから容器を受け取り、口の中に溜めた唾液を出すだけの検査でした。量を確認してもらって終わりです。いよいよ明日が入院です。
入院当日・手術一日前
手術前日の木曜日から、6日間ほどの入院生活が始まりました。午後2時に入院し、午後3時からは歯科で歯科衛生士さんに口の中をきれいにしてもらいました。全身麻酔で人工呼吸器を使う際に、口の中の細菌が肺に入るのを防ぐためだそうです。
食事は、この日から全粥と簡単なおかずのみで、これ以降は水かお茶しか口にしてはいけないと言われました。明日の手術と、術後の点滴のために左腕に点滴針を刺したまま就寝しました。点滴自体は明日の朝からとのことでしたが、できれば明日からにして欲しかった、というのが本音です。
手術当日(2023年2月17日 金曜日)
手術の日の早朝、午前5時に目が覚めました。2月なのでまだ外は暗く、もう後戻りはできないな、と思いながら窓の外を見ると、少し雪が舞っていました。手術は朝一番の9時からと聞いていましたが、8時から病室で点滴が始まりました。どうも鎮静剤のようでしたが、詳しい説明はありませんでした。生死に関わる手術ではないので精神的には楽でしたが、痛みへの恐怖はありました。
午前9時になり、手術室へ向かいました。看護師さんが「歩けますか?」と心配してくれましたが、大丈夫なところを見せようと、ベッドから起き上がり、病棟担当の看護師さんの後ろについてスタスタと手術室のある3階まで歩いて行きました。手術室のエリアは広く、ドアを開けてもらうと手術室担当の看護師さんに引き継がれ、いくつかの手術室が並ぶ廊下を一番奥の方まで歩かされました。
手術を受ける部屋に入ると、医療ドラマで見るような大きな無影灯などがあるわけではなく、ストレッチャーのようなベッドに誘導され、横になりました。健康状態を聞かれ、大丈夫ですと答えましたが、点滴の針を刺した左手首が若干痺れているような感じがしたので、麻酔医の方と看護師さんに伝えました。手首を捻ると少し痛いような感じもしました。
手術台に横になり、麻酔薬が投入されると、そのまま意識がなくなりました。
目覚めると、執刀医が「手術は終わりました。奥様にも無事終了したと連絡しておきました」と、ぼんやりした頭で聞きました。
ストレッチャーで病室まで運ばれ、緊張が解けた瞬間に、鼻呼吸ができないことの苦しさを実感し始めました。鼻詰まりによる口呼吸とは比べ物にならない違和感と異質感、そしてこの状態がいつまで続くのかという恐怖感が込み上げてきました。次に襲ってきたのは、顔の中央部から上の鈍痛と、若干の発熱です。耐えるしかありませんでした。本日は終日絶食で、口にできるのは水とお茶だけでした。
術後一日目
夜中に断片的に眠れたようですが、意識の上ではずっと起きていた記憶しかありません。昨日からの口呼吸だけの状態がずっと続くのかと思うと気が重かったです。喉の奥にへばりつく痰のようなものと、喉の乾燥もつらかったですが、諦めの境地からか、鼻呼吸ができないことと鈍痛に少しずつ慣れていく自分がいました。
昨夜から数時間ごとに様子を見に来てくださった夜勤の看護師さんには感謝しています。一度夜中に鎮痛剤をいただいた際に、鼻の穴の周りの血を拭いてくださった時は本当に嬉しかったです。頻繁に鼻の穴に詰めた脱脂綿を交換しなければならなかったのですが、寝ていて自分ではできなかったのです。この脱脂綿の交換は、自分でしなければなりませんでした。
朝8時前に、術後初めての食事が配膳されました。重湯とゼリーでしたが、鼻が完全に塞がっていたため、無味無臭に感じました。味気ない食事でした。
8時20分頃には、昨日手術をしてくださった医師が回診に来てくださいました。気にしていただけるだけで安心感がありました。「どうですか?」と聞かれ、鼻詰まりの声で「大丈夫です」と答えました。痛くて仕方ありません、と大袈裟に言えばよかったのかもしれませんが、言えませんでした。「月曜日に順調なら、ガーゼを取ります」と言われ、きょとんとした顔をした私に、鼻の奥にガーゼが左右3枚ずつ、しっかりと詰め込んであると説明を受けました。
この日は、ひたすら鼻の脱脂綿を交換するのが私の仕事でした。血が滲んできたら交換を繰り返すのですが、徐々に交換する間隔が長くなってきていることに気づきました。昼食、夕食も脱脂綿交換をしながら終え、一日が終わりました。看護師さんに自動販売機のコーヒーを飲んでもいいか尋ねると、許可が出ていないので水かお茶にしておくように注意を受けました。夜寝る前に、痛み止めと予備の滅菌脱脂綿をもらっておきました。10時に消灯となりました。
術後二日目
日曜日は、医師の回診はありませんでした。特に来てほしいというわけではありませんでしたが。
この日は、三度の食事と脱脂綿の交換、そして読書をして過ごしました。出血は極端に少なくなってきており、嬉しかったです。口呼吸だけの日々が今日で終わることを祈るばかりでした。
術後三日目
口呼吸だけの睡眠にはなかなか慣れませんでしたが、しっかりと眠れたと思います。朝食も待ち遠しくなった朝でした。
外来診察が始まる前の8時30分頃、医師が病室に来てくださり、枕元の交換済み脱脂綿の量を見て、「外来でガーゼを取りましょう。後で来てください」とおっしゃいました。
外来が始まる9時前に、看護師さんとは違う制服を着た方が「外来に来てください」と呼びに来てくれ、パジャマの上にカーディガンを羽織って看護師詰所の前を通ろうとすると、看護師さんが止めに入り、「鎮静剤を点滴してからでないと相当痛いですよ」と、患者としては意味不明なことをおっしゃり、ベッドに戻るように指示されました。医師に呼ばれたことを伝えると、「こちらから連絡して、1時間後にしてもらうようにします」とのことでした。病室で鎮静剤の点滴を受けましたが、鎮静剤を打っても鼻の奥からガーゼを引き出す時は相当痛いようです。点滴が終わってもすぐには呼ばれず、10時30分頃に外来へ行きました。
外来診察室から出てきた高校生くらいの女性が、お母さんからハンカチを渡され、「どう、大丈夫だった?」と聞かれ、「すごく痛かった」と答えているのを聞きました。どのような処置だったのかは分かりませんが、晴れ晴れとした顔をしているのを見て、口呼吸だけの生活から解放されたのだろうな、と思いました。
診察室に呼ばれ、椅子に座ると、「ガーゼを取りますから、上を向いてください」と言われ、顎の下にカーブした器を渡され自分で持つように指示されました。血や汚物が落ちて服に付かないための受け皿でした。力んで肩に力が入っているのだろう、「リラックスして、肩の力を抜いてください」と言われましたが、血まみれのガーゼが出てくるたびに自然と力が入ってしまいました。力まないと我慢できないのです。いや、逆に我慢するために力んでいるのかもしれません。左右3枚ずつの合計6枚を取り除き、消毒をして処置は終了しました。これから2ヶ月ほどは朝晩2回、鼻うがいをしてください、後で看護師から鼻うがいの指導を受けてください、と申し渡されました。痛かったですが、鼻で呼吸ができるようになったので、晴れ晴れとした顔になっているのを感じました。
昼食は、味も香りも感じられるようになりました。素晴らしい食事が戻ってきたのです。
500mlのペットボトルを用意しておくように言われていたので、午後3時頃に自動販売機に飲み物を買いに行きました。本当は別のものが飲みたかったのですが、今必要なのは500mlのペットボトルだったので、コーヒーのペットボトルを選びました。夕方近くになり、看護師さんが4.5gの塩の袋を持ってきて、ペットボトルに塩と温水を入れ、よく混ぜて購入した鼻うがいの装置に移し、洗面台で片方の鼻から塩水を入れ、もう片方の鼻から出す処置を繰り返しました。あまりにスムーズにできたので、「上手ですねぇ」と褒められました。以前からくしゃみがよく出る時に市販の道具で自分でしていたことを伝えました。
夕方、担当医が来てくれて、明日退院しても良いでしょうと言われました。予定通りの6日間の入院で済んで、ホッとしました。退院は明日の午前の診察が終わってからとのことです。おおよそ10時頃には退院できると説明を受けました。つまり、10時に退院させて、次の入院患者さんが午後2時に来るまでの4時間で清掃と消毒をするのだろうと思いました。
夕食後しばらくすると、看護師さんが来てくれて、点滴の針を外してくれました。もう点滴はないとのことです。点滴針がない腕を見ると、病人であるというイメージが薄れていくのを感じました。ありがたかったです。
退院・術後四日目
退院の日がやってきました。鼻の空気の通りは、手術前と比べて格段に良くなっています。抵抗を感じない通気性です。ただ、顔をしかめたりすると鼻の周りに軽い鈍痛が生じます。また、鼻の穴に脱脂綿をしておいた方が良いとのことでした。鼻うがいをすると、ドロっとした鼻水状のものが出てきて驚くこともあります。
午前8時45分に外来診療室に呼ばれました。鼻の奥にガーゼを一枚入れ、汚れを取る処置と消毒、そして今後の治療方針(一週間後と三週間後に来院)、自宅での鼻うがいによる洗浄、抗生物質などの処方について指導を受けました。再び痛い思いをしたくなければ、指示を守るように注意を受けました。退院は治ったわけではなく、病院での治療や看護が必要なくなっただけで、自分自身でのケアが必要なのだと肝に銘じました。
病室に戻り、荷物を整理していると、退院手続きと精算に関する書類を渡されました。病室を出る際は、確認のために看護師を呼びに来るようにとのことでした。全ての荷物を大きな鞄とリュックに詰め込み、看護師さんを呼びに行き、チェックを受けてお礼を述べ、病棟を後にしました。クレジットカードで精算し、処方箋を受け取って病院を出ました。
軽く雪が舞っていました。午前11時30分頃に家に到着し、退院した実感が湧いてきました。自宅での自己ケアが始まります。
自宅での療養
退院後は、日常的に鼻洗浄を行い、抗生物質を服用しました。重労働でなければ仕事も、激しくなければ運動もしても良いと言われていたので、退院した翌日は会社を休み、その翌日からは仕事に行きました。ジムだけは念のため一週間程度控えました。毎朝晩の鼻洗浄と薬の服用は欠かさず行いました。日が経つにつれて、血を含んだ鼻水が減っていくのを観察しました。
退院から一週間目の通院
予約していた時間に行き、20分ほど待って呼ばれました。まず鼻の奥に軽い麻酔のようなものをスプレーされ、ガーゼを一枚ずつ入れられ、待合室で10分ほど待たされました。再び診察室に呼ばれ、ガーゼを取り出し、バキュームで鼻水や鼻くそを取ってもらいました。肩に力が入るほど痛かったです。鼻の中にカメラを入れて状態を確認してもらい、順調なら二週間後は痛い処置をしなくて済むと言われました。再び二週間分の抗生物質の処方箋をいただきました。
退院から三週間後の通院
予約した時間にすぐに呼ばれました。軽い麻酔のスプレーとバキュームの後、カメラを挿入して鼻の内部を見てもらいました。今日は手術後初めて内部の画像の説明を受け、きれいに治ってきて、傷口も塞がっているとお墨付きをいただきました。薬の処方はありませんでしたが、鼻うがいは適宜行うことを勧められました。次は約一ヶ月後の予約を取りました。順調に行けば、これで病院への通院は最後になり、紹介していただいたかかりつけ医の方に通うことになるだろうと思っていました。
退院から二ヶ月後の通院
病院通いは今回で終わり、かかりつけ医へ引き継ぎになるだろうと思っていたのですが、鼻中隔湾曲症の手術はうまくいっているものの、アレルギーの症状があるためもう少し薬を変えて様子を見るために、一ヶ月後の受診が決まりました。担当医としては、いびきがなぜ続いているのか気になるようです。鼻の奥を見ると鼻水が多いのがやはり気になるようでした。
つまり、鼻中隔湾曲症の治療から、アレルギー性鼻炎の治療に切り替わったということでした。鼻水の分泌が多く、それが寝ている時のいびきに繋がっているのではないか、というのが医師の判断でした。患者としてはかかりつけ医でも良いと思うのですが、医師の立場からすると、次の医師にバトンタッチする時は完治に近い状態で渡したいという思いがあるのだろうと思いました。まあ、症状が改善するなら医師にお任せするしかありません。この部分の記事を書いているのは2023年の4月14日で、黄砂が非常に多く、花粉も飛散していて気象庁も注意を促している時期でした。
高齢者でも手術の価値はあった
鼻詰まりを意識しながらも、点鼻薬やアレルギーの薬に頼り、根本的な原因である鼻中隔湾曲症を何十年も放置してしまいました。70歳を過ぎて手術を受けることになるとは思ってもいませんでしたが、町医者の先生が「70歳でも価値がある」と背中を押してくれたおかげで、残りの数年から十数年を快適に過ごせそうです。むしろ、手術をしたおかげで寿命が5年くらい伸びたのではないか、とさえ思ってしまいます。
手術直後の鼻呼吸ができない極度の不快感や、鼻の奥からガーゼを取り出す時の痛みなど、辛い時期もあり、手術したことを後悔した瞬間もありました。しかし、人それぞれ感じ方は違うと思いますが、もしあなたが鼻中隔湾曲症による鼻詰まりで悩んでいるのであれば、体が元気なうちに手術を受けることをお勧めします。たとえ高齢者であっても、です。
そして何より、手術によって鼻の通りが格段に良くなったことで、長年使ってきたCPAPの効果を心から実感できるようになりました。以前は空気圧が高くなっても息苦しさを感じることがありましたが、今ではスムーズに呼吸ができ、睡眠の質が向上したように感じています。不安もありましたが、勇気を出して手術を受けて本当に良かったと思っています。
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