Evernote 以前_Zaurus

 さて、今回も少し昔を振り返り、Evernoteが登場するよりもずっと前の時代に使っていた機器についてお話ししたいと思います。

ポケコンから電子手帳へ

 今のようにスマートフォンはおろか、電子手帳さえまだ一般的でなかった頃、私はポケコンという小さなコンピューターを使っておりました。自分なりに簡単なメモ帳のプログラムを組んで、電話帳代わりにしたリ、ちょっとしたメモをアルファベットで入力して保存できるようにしていたのです。特に、人には聞かれたくないけれど覚えておきたい、例えば馴染みのスナックや飲み屋さんの電話番号などを記録するのに重宝したことを覚えています。紙の手帳には書きにくい、そんな情報たちの控え場所だったのです。

そんな風にポケコンで間に合わせているうちに、当時としては本当に「わくわくするような」画期的な製品が現れましてね。私のメモ生活は、そちらへと移っていくことになったのです。

懐かしのザウルス

 それが、若い頃に夢中になって使っていた携帯型情報機器、シャープの「ザウルス」でした。初めてパソコン通信というものを体験したのも、実はこのザウルスだったのです。単なるメモ帳というよりは、手帳の要素を全て詰め込んだような、まさにデジタルな相棒といった存在でした。

 中でも私が特に気に入っていた機能は、「インク・ワープロ」と呼ばれていたものです。これは、画面にペンで書いた手書きの文字や絵を、そのまま行単位で画像として記録してくれる機能でした。今でいう手書きメモ機能に近いのですが、当時はその場で書いた筆跡がそのまま残せるというのが新鮮で、大変重宝したものです。まさに優れものだったのですが、いかんせん、初期の頃の電子機器ですから、記憶容量はそれほど多くなかったですね。新しい機種が出るたびに買い替えていたのですが、「大容量」と謳われていても、今のギガバイトどころかメガバイト単位の容量と比べると、比較にならないほど小さかったことを覚えています。それでも、当時の電子手帳としての機能は十分に満たしてくれていました。

パソコン連携の試み PowerPIMM

 ザウルスの容量が厳しくなり、外部メモリーに保存することも試みましたが、やはりザウルスで管理している情報をパソコンでも活用したいという思いが強くなりました。そこで、シャープが出していた「PowerPIMM」というパソコンソフトを購入してみたのです。ザウルスの情報をパソコンで閲覧したり、編集したりできるという触れ込みでした。

 しかし、PowerPIMMはスケジュールの管理がメイン機能で、私が一番使いたかったインク・ワープロ機能は、たしか閲覧くらいしかできなかったように記憶しています。それに加えて、バグが多くて、どうも本格的に使うまでには至りませんでした。当時は、パソコンとザウルスを専用のハーネス(ケーブル)で繋いで、いちいちデータを転送したり同期したりしなければならない時代でしたから、今思えばそれも仕方のないことだったのかもしれませんね。

栄枯盛衰、そして廃番へ

 長らく愛用してきたザウルスシリーズですが、「カラーザウルス」というものに進化したとき、喜んだのも束の間、その大きさが以前の機種から二周りも三周りも大きくなってしまい、気軽にポケットに入れて持ち運ぶということが難しくなりました。それ以来、だんだんと携帯しなくなってしまったのです。

 また、初期の「電子手帳」というコンセプトから、まるで「ハンドヘルド・コンピュータ」のような、少し違った方向へ進化していったように感じました。多機能になったのは良いのですが、私にとっては少し難しくなってしまったのかもしれません。

 そうこうしているうちに、いつの間にかザウルスシリーズは製造中止となり、パソコンで使うために購入したPowerPIMMも、Windowsのバージョンが上がるにつれてアップデートされなくなり、結局使えなくなってしまいました。

 今振り返ってみると、もしザウルスの開発の方向性が、初期の「ポケットに入る便利な電子手帳」というコンセプトを一貫して追求していたら、もしかしたら今でも生き残っていたのではないか、そんな風に思うことがあります。その意味では、最近のEvernoteの開発方針の変更が、かつての勢いを失う一因となったことと、どこか似ているような気がするのです。

かつて私たちのデジタルライフを彩ってくれたザウルス。今はもう手元にはありませんが、あの頃のわくわく感とともに、私の大切な思い出の一つとなっています。

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