あの頃、心に刻んだ七つの言葉 ~工場七則と鬼十則~
皆様、こんにちは。
若い頃を振り返ることは、人生の節目の楽しみの一つかもしれません。私も時折、遠い昔のできごとを思い出しては、懐かしさに浸ることがあります。
私が社会人として第一歩を踏み出した時のこと。まだ右も左も分からない新入社員だった私の目に飛び込んできた言葉がありました。それは、当時の社長室に掲げられていたものです。社長の机の後ろ、壁に貼られていたその言葉に、私は何か強いものを感じ、すぐに手帳に控えたのを覚えています。
その時の私は、これはきっと我が社の社長が考え出した、独自の教えなのだろうと思っていました。それが、後に「工場七則」と呼ばれることになる言葉でした。
工場七則
- 仕事は自分から作るべきで与えられるものではない
- 仕事とは先手々々と働きかけて行く事で受身でやるものではない
- 大きな仕事と取り組め小さな仕事は己を小さくする
- 難しい事を狙えそしてそれを成し遂げる処に進歩がある
- 取り組んだら放すな殺されても放すな目的を果たす迄
- 周囲を引きずり回せ。引きずるのと引きずられるのでは長い間に天地の開きがある
- 自信を持て,自信がないから君の仕事には迫力もねばりもそして興味もない
若かった私には、これらの言葉一つ一つが厳しくも力強く響き、仕事への姿勢を学ぶ上で大切な指針となりました。
時が流れ、インターネットが普及する前の時代。私はパソコン通信のフォーラムに参加していました。そこで、この「工場七則」を手帳から書き出し、掲示板に投稿してみたのです。「これは社長が作った言葉だろうか?」という軽い気持ちでした。
すると、すぐに詳しい方から教えていただきました。これらの言葉は、有名な「電通 鬼十則」というものが元になっているのだと。当時は今のように検索すればすぐに情報が出てくる時代ではありませんでしたから、その時は本当に驚きました。
電通 鬼十則
元になったと言われる「電通 鬼十則」は、以下の十ヶ条です。
1.仕事は自ら創るべきで、与えられるべきでない。
2.仕事とは、先手先手と働きかけていくことで、受け身でやるものではない。
3.大きな仕事と取り組め、小さな仕事はおのれを小さくする
4.難しい仕事を狙え、そしてこれを成し遂げるところに進歩がある。
5.取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的完遂までは
6.周囲を引きずり回せ、引きずるのと引きずられるのとでは、長い間に天地のひらきができる。
7.計画を持て、長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8.自信を持て、自信が無いから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。
9.頭は常に全回転、八方に気を配って、一分の隙もあってはならぬ、サービスとはそのようなものだ。
10.摩擦を怖れるな。摩擦は進歩の母、積極の肥料だ、でないと君は卑屈未練になる。
見比べてみると、「工場七則」は、「鬼十則」の上から六つと、八番目の項目(自信を持て)を七番目に持ってきていることが分かります。つまり、「計画」「頭は常に全回転」「摩擦を怖れるな」の三つの項目が省かれていたのです。
社長は、これを「アレンジ」したというよりは、きっと書物か何かでこれらの言葉に出会い、ご自身の心に響く七つの言葉を、会社の、そしてご自身の規範として掲げていたのかもしれません。もしかしたら、最初から七つの言葉として捉えていたのか、あるいは残りの三つは工場という現場にはあまり馴染まないと考えたのか...今となっては知る由もありませんが、私には、この七つの言葉が社長の言葉として、深く印象に残ったのです。
そして、改めてこの二つを見比べた時、私には、やはり最初の「工場七則」の方が、すんなりと心に入ってくるように感じました。特に、工場という現場においては、省かれた「計画を持て」「頭は常に全回転」「摩擦を怖れるな」といった項目は、確かに大切なことではあるのですが、日々の生産活動や現場での行動指針としては、あの七つの言葉の方がより直接的で、力強かったように思えるのです。
もちろん、「鬼十則」も素晴らしい、示唆に富む言葉の数々です。しかし、私にとって、最初に心に刻み、苦楽を共にしてきたのは、あの社長室で出会った七つの言葉でした。
今でも、この「工場七則」を思い出すと、当時の自分のひたむきさや、仕事への熱意が蘇ってくるようです。私にとっては、「鬼十則」よりも、この「工場七則」の方が、身体に染みついた、より自分らしい言葉なのかもしれません。
皆様は、若い頃に出会った、心に残る言葉はありますか?
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